激しい口付けに息が乱れる。
もはやこの様な行為に恥じらいや、初々しさなど忘れるほど幾度となく体を重ねていた。筈なのにそれらが引き出されて、熱い。
それは何故なのだろうか、解らない。己の事なのに己の理解を越えた反応を返す、この身体が。
「熱いか、光秀」
呟くようで、しかし意思のある鮮明な声で言う。
一瞬、自分のおもった事が信長に筒抜けなのではないかと恥ずかしくなる。感情を隠すのは上手いと思っていたのに。
「お熱うございます」
少々上づった声に信長は目を細め、口の端を上げる。
「素直で良い、ぞ」
信長は光秀の頬を、すっとなぞる。肌理の細い肌は、信長の知るどの女よりも触り心地が好かった。白粉が手に付くことが嫌なのもあるが、それ以上に嘘偽りのない、それでも美しい、その肌と顔を好んだ。
手が、頬から首のあたりを撫で回してから着物の合わせに入っていく。高ぶり、いつもより敏感になった神経が震える。吐く息は粗く、脳は今を受止め、感じることが精一杯だった。
優しい…。光秀は感じた。いつもはもっと、己の欲望の侭に自分を抱く信長が、今日は優しい。自惚れて、しまう。
不意に胸の辺りが冷たくなる。外気に触れる。しかし信長の撫でるところは暖かい。いや、熱い。それは自分が信長を感じたせいなのか、はたまた信長の手が熱いのか、光秀には判らなかった。
あぁっ…、ちいさくこえがもれる。落着こうと息を吐くと、声が洩れる。高ぶるのが分かる。恥ずかしい。羞恥心が、襲う。
それから信長は首筋を舌で愛撫した。ザラザラした感触が、神経を侵す。信長の右手が丁度光秀の心臓の上を鼓動を確認するかのように、触る。そして膨らんで主張する突起にはまだ触れてはいない。
はやく触って欲しい。光秀は思った。だが決して言わない。ただ快楽に耐えるために目を固く瞑るばかりだ。
そのうち信長の左手が光秀の足首の辺りに触れた。身体が跳ねる。またも、甘い声が洩れた。脚に触れた手は膝を越え、段々持上がり始めた欲望の証へと近付くが、決して触れない。
「の、ぶなが…さまぁっ…」
そう喘ぐと吐息混りの声を発した口に唇が乗せられる。割って入った舌からは唾液が流し込まれる。
息が苦しい。艶やかな息は全て信長の口に消える。もちろん、この間も信長の手は光秀の太腿の辺りを彷徨い続ける。
やがて唇は名残惜しいと言わん許りに、銀糸を繋いで離れていった。
そうして今度は指を口に持って行き光秀の口に入れる。光秀は事知ったりと信長の指を、形をなぞるように舐める。
手に息がかかり、くすぐったい。信長はその先にある顔を見て笑みを浮かべる。いつも生真面目で、真直ぐな瞳をした光秀が、今はこんなに酔った目をして、淫らで、妖艶。おかしくておかしくて、思わず声を上げて笑いたくなる。そして、思う。
目茶苦茶に乱して、汚して、泣き喚かせて、やりたい。
何の前触れも無く、足を覆っていた布の感覚が抜け落ちる。腰の辺りまで捲し上げた着物はもはや申し訳程度に光秀に纏りついているだけだ。
太腿に突如として与えられた空気の冷たさに、敏感な光秀の身体は思わず反応してしまう。
信長は、やはり笑みを浮かべて少々乱暴に光秀の口から指を抜き出し、下の口に入れる。その指は中に入ると縦横に動き光秀を攻め立てる。光秀は逃げるように布団の上で身体をくねらせるが逃げることなど出来ない。そんな行動は信長を煽るだけだ。
そのうち指は2本、3本と増える。光秀は目に涙を溜めて痛みを訴えるが、信長は無視する。この苦痛から解放して欲しいが、相手が信長では、後々どの様な仕打ちにあうか怖くて、下手なことを言えない。ただ泣き喘ぐしかない。
広く冷たい部屋に光秀の声が響く。
信長は指を抜くと、光秀の下肢を肩に掛け、求めて彷徨う己自身をそこにあてがった。ぁぁっ…。光秀が過細い声を出して震える。一息してから其を一気に押込む。傷を付けながら飲み込まれる様を見せ付けられる。痛い。しかしこの感覚は嫌いでは無かった。
程なくして信長は動きだす。浅く、浅くそして段々と抉るようなその動きに合わせて喘ぎと快楽の波が押寄せる。挿入時の痛みですら、今は快感を煽り立てる材料で。頭が狂ったように喘ぎ続ける。まるで女のような自分喘ぎに反吐がでる。けれどその様なことを思っても信長の勢いは止まらない。結局、ただ恭順に、下で啼き続けるしか道は無さそうだった。だったらせめて…と思ったか、はたまたただ快感のためにか気付いたら腰を振っていた。浅ましい。
どれ程経ったか、不意に信長の手が、光秀の中心に触れる。無意識のうちに一際なこえと白濁の液体が吐き出され、そのせいで狭くなった後孔の中に信長も欲望を放った。光秀は頭が白になり、眠りにおちた。
信長は自身を引抜き身体を拭うと、そのまま仕事へと戻って行った。