乾燥した空気に水分を持って行って欲しい。と、切に願う。けれどもそんなことを思ってもすぐに消えるわけもなく。むしろ溢れ出ては耳障りな、そして煽りたてるその音は段々と自分の脳内を支配するのが解る。
そしてその音に興奮するのは相手の男も同じで。私の内側と相手のモノとが擦れ合って水音と快楽と熱を生み出す。そして若干の痛み。身体をぶつけ合う音だけが妙に現実的で苦笑しかできない。
私はその時、薄暗くだだっ広い空間の中でただ切なく輝く星だけが記憶に残っている。
日が昇り始めた眩さで、光秀は目を覚ました。
昨夜の名も知らぬ男の姿はそこにはもう無く、代わりに布袋があった。そんなに良い質ではない、チクリと手を刺すそのその袋を手に取ると中の金属がカチャリと音を発てて、その重さに沈む。きちんと銭を置いて行ったところをみると、どこかの矜持の高い落ち掛けの名族か、商家の息子かといったところだろう。身形もそれなりだった。
光秀はその袋を懐にしまうと辺りに人が通らないうちに…と急いで土を払って立ち上がり、近くの川岸で身を清める。身体には情事の跡と地面に押し付けられたせいで出来た多少の擦り傷。夜気を吸った水が肌を刺す様に冷たい。
徐々に明るくなる回りのせいで、その傷の痛々しさを知らされる。元々集落からは遠いところで寝ていたせいか、光秀の心配を余所に人の通る気配はない。
別に男と寝ることは慣れていた。最初はどうしてこうなったのか解らなかった。けれども今ならよく解る。ただ好きではなかった。理性という枷を外してまで求めたくはなかった。しかし今は生きる手段だ。それで得た銭で生活している。ただ志を棄てなければ、生きて行ける。
(嗚呼なんて…。)
濡れたところが空気に触れ寒さが和らいだ。一方で傷の方は尖った神経が刺激され熱く感じる。そして痛み。それは昨夜の行為を思いださせる様で心が痛かった。