冬の京にいるのに汗が酷く噴出す。
足元には雪があるが、いつ戦が起きてもおかしくないので体を肥えさせるわけにもいかない。

「光秀」

低い声が縁側から聞こえる。
光秀は声のほうに向き直って跪く。

「信長様…」

二人で会うのは久しぶりであった。
それは、信長に抱かれると父とのことを思い出すのが不快であったという理由が多分に含まれる。
今でも思い出したくないし憎悪を感じている。

「隣に座れ。そのままの状態で、お主に風邪を引かれても困る。」

信長は縁側に腰掛けると、光秀にもその横に来るよう指示した。
光秀は小姓に木刀を預けて、茶を入れてくるよう言うと自身も縁側に腰を下ろす。
跪いた所為でひざの辺りを濡らしていたが、緊張の為か一向に気にならない。

「正月早々、三好が動くのではないかという情報が届いている」

しつこい、と光秀は思った。消して口には出さないが。
しかし予想できたことなので、驚きはない。

「某は将軍に新年の挨拶ののち、岐阜城へと帰る。」
「かしこまりました。内密に準備いたしましょう。」

信長が京にいる間は、兵も多い。
恐らくは信長が城についてから、京へ攻め込むつもりなのだろう。
むしろ相手をこの辺りで叩き潰す為にも、油断させておくのが上策である。
光秀はそれを読み取り、秘密裏に事を進めるといったのだ。

光秀は、額の汗が冷たくなっていることにようやく気付き、肩にかけてあった手ぬぐいで拭った。
風は冷たく吹いていた。